平成26年8月29日(金)法務大臣臨時記者会見の概要

本日,小林光弘髙見澤勤,この2名の死刑を執行いたしました。この2名に関する犯罪事実の概要等について概略を申し上げますと,まず小林光弘につきましては,借金の返済資金等に困窮し,消費者金融会社支店店舗内においてガソリンを主成分とする混合油をまくなどし,同支店支店長らを脅迫して現金を強取しようとしましたが,同人らがそれに応じようとしなかったことから憤激してまいた混合油に火を放ち,同店舗をほぼ全焼させるとともに同店従業員5名を殺害し,同支店長ら4名については傷害を負わせたにとどまって殺害するには至らなかったという現住建造物等放火,強盗殺人,強盗殺人未遂事件です。
続きまして,髙見澤勤につきましては,暴力団組長として活動していた同人が,配下暴力団組員らと共謀の上,拳銃を使用して3名をそれぞれ別の機会に射殺し,そのうち2件についてその死体を遺棄するなどしたという殺人,死体遺棄,銃砲刀剣類所持等取締法違反等事件です。
いずれの事件を見ましても,大変身勝手な理由から被害者の尊い人命を奪った極めて残忍な事件であり,それぞれの被害者や遺族の方々にとっては無念この上ない事件だと思います。そして,当然のことながら,いずれの事件も裁判所において十分な審理を経た上で,最終的に死刑が確定したものでございます。以上のような事実を踏まえ,慎重な検討を加えた上で死刑の執行を命令した次第です。

死刑執行に関する質疑について

【記者】
前回の執行から2か月後の執行となりましたけれども,この時期を選ばれた理由と,対象としてこの二人を選んだ理由についてお伺いします。
【大臣】
この時期,あるいはこの二人を選んだ理由,こういうことについては従前も詳細に申し上げることは差し控えてまいりました。ただ,我が国には死刑という制度があり,裁判所で慎重審理の上に確定判決に至りますが,もちろん死刑は極刑ですから,最後に法務大臣が命令するということになっているわけです。慎重な検討を加えることは当然のことですが,やはりそういう裁判所の死刑判決というものを前提にしてきちんと検討し,しかるべきときには結論を出すということはやっていかなければいけないと思っています。
【記者】
本日の執行後の死刑確定者の数と今回執行された二人についての再審請求の有無,それから再審請求・恩赦出願中の死刑確定者の数についてお伺いできますか。
【大臣】
今回執行した二人について,今のような恩赦等の申出があったのかどうか,こういう点についても,それぞれの死刑確定者の意思もあると思いますので,公にはしないことにしています。現在の未執行者数につきましては,今日の執行前で128名でしたが,執行後は126名です。それから,再審請求・恩赦出願は,現在法務省が把握している範囲ではありますが,再審請求中の者が89名,恩赦出願中の者が25名です。再審請求と恩赦出願には重複があります。
【記者】
今おっしゃっていただいた未執行者数は,袴田氏を含めた数字でしょうか。
【大臣】
含んでおります。
【記者】
第二次安倍政権においては今日が6回目の執行,執行者数は合計11人ということで間違いはないでしょうか。
【大臣】
間違いありません。
【記者】
この二人については裁判で争う点がありまして,小林死刑確定者については殺意,髙見澤死刑確定者については関与ということですが,こうした争いのある死刑確定者の執行は袴田事件の再審決定以降初めてだと思います。こうした争いのある死刑確定者を執行した理由についてお伺いします。
【大臣】
これは,先ほど申し上げたことに尽きます。裁判所が十分審理した上で出された結論であり,そういう裁判所の結論を前提として,慎重に検討して判断をした,命令をしたということです。
【記者】
先日,国連の自由権規約委員会で,死刑制度についていろいろな批判ですとか,見直しに関する勧告が出たばかりだと思います。勧告自体への大臣の受け止めと,勧告からおよそ1か月半という段階で執行した理由などについてお聞かせください。
【大臣】
勧告に限らず,世界中には死刑を廃止しているところがございます。そういうところからのいろいろな御意見,また,日本の中にも死刑反対の方々もいらっしゃるわけですが,そういう方々の御意見は私のところにも当然届いておりますし,そういう御意見がどういうことを主張しておられるのか,思考すべき点があるのかないのか,こういったことは常に私の念頭にございます。法務省としてもそのことは念頭にあるわけです。ただ,先ほど申し上げましたように,我が国には死刑制度というものがあり,裁判所で慎重な審理の上に確定判決に至る。法務大臣はやはり法を守っていかなければなりませんので,そういう仕組みがあることを前提に私は判断をしております。しかし,これも度々申し上げていることでありますけれども,死刑というのは極刑です。死刑の確定判決に加えて,最終的に法務大臣が執行を命令しなければならないという仕組みになっておりますので,当然それは法務大臣がきちんともう一度検討した上で,法の趣旨にのっとって命令せよということですから,その点は私もかなり時間を掛けて十分に検討したということです。
【記者】
自由権規約委員会では,家族も含めてですけれども,死刑確定者に対する事前通告に対する問題点を指摘していると思います。この点について,大臣はどうお考えなのかということと,今回の二人に関して事前通告があったのかどうか,この2点をお願いします。
【大臣】
これは各国,あるいはそれぞれの論者によっていろいろな御意見があるのだろうと思います。しかし,私どもは日本のこういう行刑の歴史の中で,死刑確定者の心情の安定というようなことを重視して今まで対応してまいりました。基本的にそういう考えを私も持っております。
【記者】
御自身でも独自に慎重な検討を加えた上で判断したというふうにおっしゃいましたけれども,具体的に何日くらい掛けて,どのような資料を読んで,どのように判断したのかお聞かせいただけますでしょうか。
【大臣】
死刑執行に至る経過については,余り細かなことは申し上げないことにしています。それは確定者の心情の安定等いろいろ考えてのことです。ただ,私はかなり時間を掛けて丁寧に記録を検討しているということです。
【記者】
一日で執行を決めたとか,そういうことではないということでしょうか。
【大臣】
そういう細かな,具体的なことは申し上げるのは差し控えたいと思います。
【記者】
記録というのは厚さはどれくらいでしょうか。
【大臣】
それもお答えは差し控えたいと思います。
【記者】
近く内閣改造が断行されるとの報道があります。それに関連して,大臣は以前に有隣会の会合で「新しい法相が誕生する可能性は多分にある」という発言をされたと伺っております。この発言と,今回の時期での執行になったということについての関係は何かございますでしょうか。
【大臣】
特段ございません。辞めるまで法務大臣ですから,職責を全うするということです。
【記者】
それぞれ確定年月日を教えていただけますでしょうか。
【大臣】
小林光弘は平成19年4月14日に確定しています。髙見澤勤につきましては平成24年11月14日に確定しています。
【記者】
今回で11人目の執行ということになりましたけれども,歴代の法務大臣の中でも比較的数が多いという印象を受けます。この点について,大臣はいかがお考えでしょうか。
【大臣】
今までの大臣にもそれぞれいろいろなお考えがあったと思いますし,在任期間も様々であったと思います。私は近年の法務大臣としては,比較的在任期間も長い方になってきているということはございます。
【記者】
9月の内閣改造で退任を示唆されておりましたけれど,法務大臣として死刑執行をどう指揮するか,命令するか,その在り方についてお考えがありましたらお聞かせ願えますでしょうか。
【大臣】
これも先ほど申し上げたことに尽きるのですが,一つは,これは極刑でございますから,確定裁判というだけではなくて法務大臣が命令をするということにしているわけですけれども,それは慎重を期せということだろうと思います。もちろん法務大臣の資格は,練達の刑事裁判官であるということでもありませんし,練達の検察官であるということでもございません。しかし,それなりの政治経歴を持つ者,あるいは社会経験を持つ者として,プロの裁判官,プロの検察官,あるいはプロの弁護士とは別の目できちんと記録を検討せよということなのではないか,一つはそういうことです。それからもう一つは,死刑に関しては個人的な思想としていろいろなお考えをお持ちの方が今まで法務大臣にもいらしただろうと思います。しかし,個人的な考えはいろいろ,それぞれだといたしましても,やはり法務大臣たる者は今の法の仕組みというものを前提として行動する。もちろん法の仕組みが良いのか,悪いのかなどいろいろ御議論があるでしょう。しかし,基本的に現行の法というものを前提として行動する,尊重するということではないか,このように考えております。
【記者】
小林死刑確定者に関しては,今月初旬に最高裁で再審請求が棄却されています。それと今回の執行との関係があるのかお願いします。
【大臣】
これも今まで類似の御質問をしばしば頂いているところでありますけれども,再審の審理中であるから執行はしないという前提は採っておりません。ただ,命令を発しますときに,裁判所の御判断は御判断としまして,果たして再審に当たる事由があるのか,あるいは恩赦をしなければならない事由があるのかどうかというのは,当然十分に検討するということです。
【記者】
執行は判決確定の日から6か月以内という訓示規定があると思うのですけれども,執行を命じるまでの期間というものに関して,大臣は何かお考えはありますでしょうか。
【大臣】
6か月以内というのは訓示規定だということになっているわけですが,そういう規定が設けられた趣旨は十分尊重しなければならないと思います。しかし,現実には現在120名を超える死刑確定者がいるわけで,それの一つ一つを検討するというのもかなり時間が掛かります。そういう中で,自分の能力の限り粛々と検討しなければならないということなのではないかと思っています。
【記者】
確定から執行までの平均の期間について教えてください。
【大臣】
平成16年から25年までの10年間で死刑を執行された者について,執行までの期間は平均5年6か月になります。
【記者】
二人の一審と控訴審の判決の決定が出た日付を教えてください。
【大臣】
小林光弘につきましては,青森地裁で平成15年2月12日に判決が出まして,それから仙台高裁で控訴棄却をしたのが平成16年2月19日です。それから,最高裁が上告を棄却したのが平成19年3月27日で,4月14日に確定ということです。それから,髙見澤勤につきましては,平成20年2月4日に前橋地裁で死刑判決が出て,それから平成20年12月12日に東京高裁が控訴を棄却したということです。それから,最高裁が上告を棄却したのが平成24年10月23日ですが,確定したのは同年11月14日ということです。
(以上)