いわゆる「長野一家3人強殺事件」 出典
事件発生日 2010年3月24日 一審判決
被告人/受刑者 池田薫 毎10.4.15夕
年齢 逮捕時(10.4.15) 34歳 毎10.4.15夕
事案の概要 長野市の建設業の男性(62歳)とその長男夫婦が殺害されて現金が強取され、遺体が資材置き場の盛り土の斜面に掘った穴に埋められて遺棄された事件。主導的立場であった共犯者2名は死刑が確定。池田受刑者の裁判では、量刑判断が争点となった。 控訴審判決
第一審 裁判年月日 2011(平23)年12月6日 TKC
裁判所名・部 長野地方裁判所
事件番号 平成22(わ)96
量刑 死刑
裁判官 高木順子 菅原暁 北澤眞穂子
量刑の理由
(要旨)
各犯行の罪質、動機、態様の悪質性、結果の重大性などを鑑み、共犯者間の刑の均衡も念頭に置いた上でも、極刑がやむを得ない。
控訴審 裁判年月日 2014(平26)年2月27日 東高刑時報65巻6頁

D1-Law

TKC

裁判所名・部 東京高等裁判所 第10刑事部
事件番号 平成24(う)332
結果 破棄自判
裁判官 村瀬均 河本雅也 池田知史
裁判要旨 池田受刑者自身には計画性はなく関与も限定的であって、現金奪取の意図の程度についても他の共犯者とは相当有意な違いが認められるため、死刑を選択することが真にやむを得ないとはいえない
上告審 裁判年月日 2015(平27)年2月9日 D1-Law

TKC

法廷名 最高裁判所第三小法廷
事件番号 平成26(あ)481
裁判種別 決定
結果 棄却(弁護人の上告趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない)
裁判官 大橋正春 岡部喜代子 大谷剛彦 木内道祥 山﨑敏充
備考 長野市の建設業の男性(会長)とその長男(専務)およびその妻が、従業員らに殺害され現金410万円余が強取された事件。伊藤和史死刑確定者(2016年4月26日死刑確定)が首謀者とされ、伊藤死刑確定者と共謀した松原智浩死刑確定者(2014年9月2日死刑確定)の2名に巻き込まれる形で池田受刑者が途中から犯行に加わったとされる。

かねてから労働条件が悪く自由の利かない生活に不満を持っていた伊藤死刑確定者が、松原死刑確定者に会長・専務親子の殺害をもちかけ、それ以降殺害方法や遺体の遺棄方法を相談するようになり、二人だけでは体力的に不安があったために池田受刑者にも犯行に加わるように依頼し、さらに遺体の運搬・処理をもう1人の共犯者に100万円で依頼した。伊藤・松原死刑確定者は、同年3月23日までに遺体運搬のためトラックやドラム缶、殺害手段のロープなどの手はずを整え、24日に日付が変わった直後に睡眠薬を夜食に混入して専務を眠らせたところ、朝になって専務の妻が専務の様子を不審に思い始めたため妻も殺害することにし、手が足りないと考えて池田受刑者を電話で呼び出して合流。伊藤死刑確定者が妻の首にロープをかけ、妻を床面に転倒させたところで池田受刑者もロープの一端を持って引っ張って締め付け、最後は松原死刑確定者が単独でロープを引っ張り、絶命させた。次に専務の頸部にもロープをかけ、伊藤死刑確定者と池田受刑者が両端を引っ張って殺害。さらに伊藤死刑確定者と松原死刑確定者で会長の頸部にかけたロープを引っ張り、その途中で松原死刑確定者が会長の現金を強取した。その後、会長宅に呼び出したもう一人の共犯者とともに、3人の遺体をバッグに詰めて運搬し、愛知県の資材置き場の盛り土斜面に掘った穴にバッグに遺体を入れたまま埋めて遺棄した。強取金の分配については、犯行直後、運搬役の共犯者に100万円が報酬として渡され、残りは概ね三等分された。さらに26日に2階の隠し物置内から強取した約281万円を4人で分配し、池田受刑者は約71万円を受領した。

初公判で池田受刑者は、専務とその妻の殺害の関与は認めたが、強盗目的を否認し、会長殺害については起訴内容を一切認めなかった(毎11.11.14中部夕刊)。
弁護人も、専務の現金を強取する意思はなく強取する実行行為にも加わっていないので両者に対する殺人罪に問われるにすぎない、また、会長に対する強盗殺人罪の共謀や実行行為は認められず、殺意も有していなかったのだから無罪であると主張した。
判決は、本件各犯行について結果の重大性を最も重視し、次いで、殺害態様の執拗性や残忍性も見過ごせないとした上で、首謀者は伊藤死刑確定者であり、松原死刑確定者も池田受刑者より果たした役割が大きいとしつつ、池田受刑者も専務とその妻の殺害や遺体の搬出を実行しており、次々と3名の殺害を遂行し、遺体搬出や現金奪取に成功したことについては池田受刑者の協力が重要であったとした。また、池田受刑者の計画性の程度、犯行動機、共謀に加わった時期、現金強取の意図の強さ等の評価を、量刑上最大の問題と位置付けた上で、〈1〉池田受刑者は、事前共謀に関与せず、犯行予定日も知らされないまま呼び出しをきっかけに参画したにすぎないとしつつ、他方で、犯行の約1か月前から計画の概要を打ち明けられて犯行への加担を誘われ、犯行当日、呼び出されて会長方に赴き、状況の説明を受けた上で、会長親子の締付けへの不満とそれからの解放、交際相手の中絶を強要した専務への怒りなどから、専務の妻の殺害をも含めて犯行を決意して殺害の実行行為を積極的に行っており、偶発的、突発的な犯行とはいえず、池田受刑者自身の主体的な動機により参画したと評価すべきであって、刑種の選択に当たり、計画を樹立したのが共犯者であることや、追従的に加わったことを決定的な要素とすることはできない、〈2〉共犯者の現金奪取の目的を知りつつ参加し、犯行後も何ら異議を唱えることなく強取金の分配に与っていることなどから、現金獲得が副次的であったとしてもさほど斟酌すべき事情には当たらない、と判断した。これらの検討に加え、いわゆる永山判決(最二小判昭和58年7月8日)に示された死刑選択の際の他の考慮要素も踏まえて諸事情を検討し、共犯者間の刑の均衡も念頭に置いた上、極刑が真にやむを得ない場合にのみ科し得る窮極の刑罰であることに照らしても、池田受刑者に対しては死刑をもって臨まざるを得ない、とした。

控訴審では、弁護側は量刑不当を主張。判決は、各量刑事情を検討し、結果の重大性、殺害態様の執拗性、残忍性等、また、被告人の果たした役割についても、共犯者が腰のヘルニアを患っていたり相当の怪我を負っていたことを踏まえると本件各犯行に池田受刑者の協力が重要であったとする原判示に誤りはないとした。一方で、本件各犯行への池田受刑者の関わり方をみると、共犯者が性急に殺害行為に着手して相当程度実行された後に共謀を遂げたものであって限定的な関わりというべきであること、池田受刑者自身の主体的な動機で犯行に加担したものではなく、共犯者2人が計画を実行に移し、専務を睡眠導入剤で昏睡状態に陥らせた後になって突発的に慌ただしく経過が進んだ末に犯行に巻き込まれる形で関与するに至ったものであり、池田受刑者自身に計画性は認められないこと、被告人が及んだ殺害行為も終始共犯者に指示されるまま追従的に行ったものであること、殺害行為時には現金奪取の認識は強いものではなく、自ら強取金を利得しようと考えて加担したとも認め難い(そもそも現金奪取は遺体運搬を依頼した共犯者への報酬のために必要だった)ことなどの事情が存する。共犯者間の刑の均衡という観点でみても、池田受刑者が果たした役割は重要ではあったものの、突発的に犯行に巻き込まれたものであり、池田受刑者自身には計画性はなく関与も限定的であって、その間には明らかに有意な違いが認められる。また、計画段階から報酬の必要のため強取の犯意が強固であった2人の共犯者に対し、計画には関与せず、犯行時にも報酬など考える立場になかった池田受刑者との間には、現金奪取の意図の程度についても相当有意な違いが認められるとして、死刑判決を破棄し、無期懲役とした。

検察側は「判例違反など明確な上告理由が見当たらなかった」と上告断念したが(毎14.3.13朝)、弁護側が上告(毎14.3.14朝)。上告は棄却され、無期懲役が確定した。