いわゆる「熊谷市6人殺害事件」 出典
事件発生日 2015年9月14~16日 一審判決
被告人/受刑者 ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン 朝日15.9.18朝
年齢 身柄確保時(15.9.16) 30歳
事案の概要 3日間にわたり3世帯の民家で男女6人が侵入者によって殺害され、金品等が奪われた事件。事件前日に警察署に保護されながらも脱走したペルー国籍の男が犯人として逮捕され、裁判では責任能力の有無が争われた。
第一審 裁判年月日 2018(平30)年3月9日 判時2416号98頁

D1-Law

TKC

裁判所名・部 さいたま地方裁判所 第4刑事部
事件番号 平成28(わ)631
量刑 死刑
裁判官 佐々木直人 四宮知彦 片山嘉恵
責任能力についての判断 被告人が有していた精神症状としての妄想が各犯行に一定の影響を与えていることは否定できないものの、それは限定的なものであり、完全責任能力を有していたと認定した
控訴審 裁判年月日 2019(令1)年12月5日 朝日19.12.6朝
裁判所名・部 東京高等裁判所 第6刑事部
事件番号
結果 破棄自判
裁判長 大熊一之
責任能力についての判断 「統合失調症の影響が非常に大きい」として、刑を軽くしなければならない心神耗弱状態だったとした。
上告審 裁判年月日 検察側は上告断念、弁護側が上告 毎19.12.20朝
備考

3日間にわたり3世帯の民家で男女6人が侵入者によって殺害され、金品等が奪われた事件。逮捕されたナカダ被告人はペルー国籍を持ち、2012年に再来日して以降、稼働先を転々と変えながら日本で暮らしているうちに次第に職場で孤立するようになり、職場関係者や職場関係者から差し向けられた者から危害を加えられるとの被害妄想を抱くようになったという。危害を加えようとする者が自分や親族を加害するために追っているとの妄想から、事件前々日の2015年9月12日に寮を出奔。この際、職場関係者や知人に”スーツを着ている3人の日本人が自分を殺しに来た”などと電話で話している。翌13日、いったん警察に保護されるが、現金や在留カード、旅券といった貴重品一切を警察署に残して身一つで逃走(起訴前鑑定の際、ナカダ被告人は、警察官たちもグルだと思ったと語っている)。14日、1軒目の民家に侵入して2人を刺殺し、奪った自動車で逃走(現場には判読不能な血文字が残されていた)。翌15日から16日の間に2軒目に侵入して1人を刺殺。この際、遺体を風呂場の浴槽内に入れてフロアマットをかぶせた上、浴槽に蓋をし、床上の血痕を一見して分からないように拭き取っている。16日、3軒目に侵入、小学生女児2人を含む3人を刺殺、遺体をクローゼット等に移動させて敷毛布等をかぶせた。3軒のいずれでも金品を奪い、その場で飲食するなどしていた。
3軒目の家屋内にいたところを警察官に現認され、2階で自分の両腕を刃物で切りつけた後、窓から飛び降り、県警が身柄を確保したが、頭の骨を折って意識不明の重体となった(朝日15.9.18朝)。
2015年12月から翌年5月まで鑑定留置が実施され、さいたま地検が刑事責任を問えると判断して起訴したが、弁護側が改めて精神鑑定を要求。2017年4月にさいたま地裁がそれを認めて捜査段階と別の医師が鑑定を行った結果、精神疾患(統合失調症)があると判断された(朝日17.9.13夕)。

2018年1月26日から裁判員裁判が開始され、弁護人は、被告人に当時の記憶がないため認否することができないとしつつ、各強盗殺人罪の故意の立証がないとしてその成立を争い、殺人罪及び窃盗罪の成立にとどまると主張。また、被告人は各犯行当時心神喪失であった疑いがあるとして無罪を主張した。被告人質問で「日本で人を殺したことはありますか」と尋ねられたナカダ被告人は、「覚えていない」と5回繰り返し、その他の質問でもかみ合わない回答をすることもあったという(読18.2.9夕)。

一審判決は、(1)犯人性、(2)殺意の有無、(3)強盗の故意の有無、(4)責任能力の4つの争点について、以下のように示し、死刑判決を下した。(1)犯人性 現場家屋内にいたところを警察官に現認されていること、および、各事件現場の痕跡や凶器の特徴からナカダ被告人が犯人であることはほぼ間違いない (2)殺意の有無 証拠上認められる犯行態様(相当強い力で包丁を致死的な箇所に刺しているなど)から、殺意の存在は明らか (3) 強盗の故意の有無 3軒それぞれで金品物色行為に及び、実際に金品を入手したり、飲食行為に及んだりすることを繰り返しており、侵入時に包丁を携行した上での犯行等の状況だけをみても、殺害することを含め、家人を抵抗できない状態にして金品を奪う強盗目的があった (4) 責任能力 起訴後に裁判所に命じられて精神鑑定を実施した精神科医の診断(自分や親族の命が狙われているといった被害妄想が存在しており、各犯行当時は統合失調症に罹患していた)を前提とし、精神障害が各犯行の犯意形成に影響を与えたとする見方は確かに可能であるが、各犯行の前後を通じて周囲の状況を認知して相応の判断を行い、合目的性を保った行動をとっていたと認められる、また、罪証隠滅の意図に出た種々の行為をみると、自己の行為が悪いことで法に触れることは理解していたとみるのが相当であって、犯行時においても違法性の認識を欠いていたとは考え難く、完全責任能力を有していたと認められる。

弁護側は即日控訴(朝日18.3.10朝)。控訴審では、弁護側は責任能力がないとして改めて無罪を主張(朝日19.6.11朝)。東京高裁は、現場周辺で「男に殺される」などとつぶやきながらさまよった事件前の言動や精神鑑定の結果を踏まえ、被告人には統合失調症による「被害妄想」があったと指摘。「命が狙われている」という妄想を考慮しなければ事件を説明できず、被告人は犯行時は責任能力が限定的な心神耗弱状態だったと認定し、責任能力の問題がなければ「極刑をもってのぞむほかない」が選択できる量刑のうち上限である無期懲役にするのが相当、と結論づけた(朝日19.12.6朝)。

これに対し、弁護側は、責任能力が全くない「心神喪失だった」として無罪を主張して上告。東京高検は「適法な上告理由を見いだせず、遺憾ながら上告を断念せざるを得ないとの結論に達した」と上告を断念し、被告人が死刑にならないことが確定した(朝日19.12.20朝)。

2018年9月、妻と娘2人を殺害された遺族男性が、最初に起きた事件の後に県警が必要な情報提供を怠ったことが3人の殺害事件につながったと主張して、県に約6400万円を求める訴訟をさいたま地裁に起こしている(朝日18.9.15朝)。